易疲労対策は3本立てで
高次脳の方の就労準備でまず最初に取り組むべきは易疲労対策です。
その易疲労対策は3本立てで行いましょう。
1 少しずつ負荷をかけて体力、耐久性を向上させる
2 睡眠、食事などで自律神経を整える暮らしを心がける
1 全体的な体力、耐久性を上げる
発症、受傷から半年近く入院生活を送り在宅に戻られたわけですから、筋力も落ち体力も低下しています。ここから少しずつ負荷をかけながら全体的な体力、耐久性を上げていく必要があります。朝と夕方に散歩をする程度ではなかなか体力、耐久性は向上しません。体力、耐久性をアップさせるにはどこか通う所を作るのが一番です。
最初は歩行がまだおぼつかない方の場合は訪問リハを使うこともあるでしょう。歩行が自立できたら通所リハに通う場合もあるでしょう。しかし、機能回復訓練だけでは負荷量としては不足しています。
社会参加をめざすレベルの生活訓練か、就労自立をめざす就労移行支援(近くに就労移行がない場合には就労継続B型)に通うことを私はおすすめします。通勤の練習にもなりますし、1日5~6時間は文化活動や作業活動に参加しながら体力をつけていくことができます。知らないうちに1日8時間働く体力、耐久性をつける訓練になるわけです。
「どこか通うところを作る」これが易疲労対策の一つ目の柱です。
2 自律神経を整える
易疲労は脳のエネルギー問題です。脳のバッテリーが小さくなったり、消耗しやすくなったり、充電しにくくなった状態です。易疲労の症状は眠気、頭痛、肩こり、まぶしさなどで、これは自律神経の不調の症状です。脳は眠っている時でも自律神経を使って生命活動を行って脳のエネルギーを消費しています。
脳は下の図のように脳のエネルギーを使って①生命活動、②感覚の受容、③感情のコントロール、④認知活動を行っています。高次脳の方の易疲労は④の認知活動によってのみ起っているのではなく、①の生命活動、②の感覚の受容、③感情のコントロールでも起こっているわけです。
また、梶本修身『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書、2016年)の中では、ずばり「疲労とは自律神経の機能低下である」と指摘されています。
ですので易疲労対策の2本目の柱は「自律神経を整える」です。
自律神経を整える生活で一番大事なのは「睡眠」です。
『奇跡の脳』(新潮文庫)の著者のテイラー博士も「回復のために必要なこと40」の中で「10 睡眠の治癒力に気づいて」と強調しています。「適切な量の睡眠でバランスをとれば、脳は奇跡的な回復を果たすことができる」(176ページ)と言っています。
良質な睡眠をとる方法は本やYoutubeでたくさん紹介されていますので割愛させていただきます。
自律神経を整える上で二番目に大切なのは「食事」です。食事についても同様に割愛させていただきます。
易疲労対策の3つ目の柱は「自分の易疲労のスペシャリストになる」です。
自分はどんな時に疲れるのか、どんな対策をすると疲れを減らせるのか、について知って対策を取れるようになることです。
当事者の方たちが色々な形でご自分の易疲労や対策を発信されています。また、就労支援施設で行われるグループワークで易疲労について話し合うこともあります。
一般的には次のような「脳を疲れさせる要因と対策」があります。
このような易疲労の情報を参考にしながら、自分の場合は「どんな時に疲れるのか」「どんな対策が効果的か」を研究していかれるといいと思います。