9月は就労移行支援にとって特別な月
「9月末までになんとか一人は就職させてください」
就労移行支援で働いている人は管理者からこんなプレッシャーを
かけられることもあるでしょう。
なぜ9月末までなのか?
なぜ就職者を出さないといけないのか?
来年の就労移行支援の基本報酬が9月末までの就職者数で決まるから
就職後6か月以上定着した者の数で来年の基本報酬が決まる。10月から
3月までで6カ月、10月就職では3月までで5カ月なので日数が足りない。
だから来年度の基本報酬は9月末までの就職実績で決まるルールだ。
令和3年の改訂で「前年度の」就職実績から「直近2か年度の実績」に変更
されたが9月の重要度は変わっていない。
就職者数によってどのぐらい基本報酬に差が出るのか?
定員20名の就労移行支援事業所で調べていこう。
単位は1級地から7級地、その他の8区分がある。例えば、東京23区は1級地で1単位が11.18円、町田や横浜は2級地で10.94円、その他は10円である。単純に考えるために1単位10円で考えていこう。
上の図で20人定員の就労移行支援では5割以上は10人の就職、0割で0人ということになる。就職者0人では来年の基本報酬(利用者1人が1日通所した時の報酬額)が4680円、
2人就職で5570円、4人で6900円ということになる。10人で11280円。0人と10人では実に2.4倍の差を付けている。
毎日20人が通所して1か月20日開所していたとして月間の基本報酬を計算してみよう。
468単位の場合:4680×20×20=187万2千円
1128単位の場合:11280×20×20=451万2千円
私の経験ではコンスタントに1年で4~5人就職させていくことはかなり頑張らなければならない。1年で2~3人の就職を目指すのが無理のない取り組みだろう。施設運営的には7000~8000円の基本報酬が欲しいところだろう。
B型よりも低い就労移行支援の報酬設定はペナルティか
気になるのは就労移行で就職者0人や1人の場合の基本報酬がB型よりも低いことだ。
定員20名の就労継続B型の基本報酬は以下の表のようになっている。
B型の40%は工賃1万円未満、約25%が1万円以上1.5万円未満だ。
B型は566単位や590単位の所が多いということになる。
一方で就労移行支援事業所では0人:468単位、1人509単位、2~3人で557単位。
4~5人でようやく690単位でB型よりも高くなる。1年で3人ぐらいしか就職させられない就労移行支援事業所はB型に代わったらどうですかと言われているようなものだ。
日本の福祉サービスに導入されたインセンティブ
私が障害者福祉の世界に入ったのが1983年だった。当時は措置費の時代で施設体系も更生施設、授産施設、福祉工場に分かれていた。施設定員にお金が支払われる時代で、通所施設では来ても来なくてもお金が支払われた。障害者を社会に出している施設も何もしていない施設も入ってくるお金は同じだった。
私が衝撃を受けた挨拶をした厚労省の課長がいた。1988年1月の全国施設長会議で当時の障害福祉課長の浅野史郎氏が次の発言をしたのだ。
「1年間に施設から社会に出る人は100人に1人、1パーセントにすぎない。あなた方は専門家として恥ずかしくないのか」
私は「よくぞ、言ってくれた」と胸がすく思いだった。しかし、施設の仕組みが変わるのには更に長い月日が必要だった。
2003年に支援費制度になり、2006年から自立支援法となった。施設体系は日中活動と施設入所に分かれ、更生施設は生活介護と自立訓練、授産施設は就労移行と就労継続B型、授産工場は就労継続A型となった。
①来た利用者にしかお金は出さない
②就職させたらお金を加算する、逆に就職させないと減算する
厳しくなる就労移行支援の運営
私はフリースクールの卒業生が利用する就労移行支援支援にアドバイザーで関わっている。プラスとマイナスのインセンティブをかけられた就労移行支援の運営は大変だ。
さいわい経営陣が経理を公開して「〇人就職させないと赤字に転落する」とか発信してくれているので、運営の目標が共有されている。
就労移行の適性規模も検討して20人定員から減らす対策も取っている。B型も合わせて運営している。就職の準備の整った利用者から実習や職場見学、面接練習を行うようにしている。スタッフにとっても無理のない目標、1年に2~3人の就職をめざしてアドバイスをしている。