高次脳の後遺症を知ろう

1 高次脳の方が就労準備として

      取り組むべき3つの課題

 高次脳の方が復職・新規就職のための準備として取り組むべきことは次の3つです。

 (1)体力·集中力の向上(易疲労対策)

 (2)後遺症を知る(高次脳の理解を深める)

 (3)後遺症をカバーする方法を身につける 

 最初は体力・集中力の向上に重点を置きますが本命は後遺症を知ることです。

 なぜなら高次脳の方の就労上の最大の困難点は病識を持ちにくいことだからです。手や足の麻痺なら以前の体とは違うことが分かります。言葉が出にくい失語症なら以前と違うことが分かります。しかし目に見えない高次脳機能障害は自覚することがたいへん難しいのです。

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病識の持ちにくさ


 
高次脳の支障の自覚のないまま就労するとミスを連発したり体験したことのない疲れにおそわれたりします。アポを忘れたり仕事上の失敗を重ねたりします。職場での評価が下がり叱責され自信を失い退職を余儀なくされたりします。自分を責めたり周囲に八つ当たりしたりすることが増えてしまいます。こうしたことを予防するために「病気や怪我によってどんな後遺症が起こっているのか」を知ることが高次脳の方の復職・新規就職の準備として最重要な課題となります。

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2 後遺症を知るための3つのプログラム

 私が顧問をしている就労移行支援事業所では後遺症を知ることを目的に次の3つプログラムを大事にしています。

 (1)個別相談 (2)作業 (3)グループワークGW

この3つがトライアングルになって高次脳の理解を進めていきます。

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3 職場で現れやすい後遺症

 

 私は高次脳の方に向けて「復職教室」や「グループワーク」のプログラムを行っています。その中で以下の表をお見せして「高次脳の方が職場に戻った時に現れやすい症状がいくつかあります。人によって現れる症状は違います。ご自分にも起こりそうだなと思うものがありますか。」と考えていただいています。

 

  表 職場で表れやすい症状(高次脳による支障)  

                  ※人によって様々です

 

  ① 聞いたり話したりすることが苦手になる

  ② 同じことを何度も聞く

  ③ 大事なアポを忘れる

  ④ ミスをくりかえす

  ⑤ 仕事が遅くなる

  ⑥ 同時に複数の仕事をこなすのが苦手になる

  ⑦ 仕事の段取りや計画をたてるのが苦手になる

  ⑧ 臨機応変な対応が苦手になる

  ⑨ 検品や細かい確認作業が苦手になる

  ⓾ 疲れやすくなる

  ⑪ 怒りっぽくなる、泣きやすくなる、落ち込みやすくなる

  ⑫ 相手の気持ちをさっするのが難しくなる

  ⑬ 左側を見落とすことがある

  ⑭ 数字を間違えやすくなる

 

 人によって5つ選んだり1,2つ選んだり反応は様々ですが、「3つにしぼって下さい」とお願いしています。なぜそう思うのか、エピソードも語っていただきます。作業場面でこんなことがあったとか、家でこんなことがあったと具体的な例をあげていただきながら話していただきます。

 グループワークですと、他の人の発言から自分にも思い当たることがあるとか、話が広がっていきます。復職教室ですと同席されたご家族から家でのエピソードをお聞きすることもあります。

 後遺症を知る。いきなり「どんな後遺症がありますか」と聞くよりも上の表のように具体例を示しながら聞く方が考えやすくなります。そして考える材料は日常生活や作業の中での経験です。