脳卒中や交通事故で会社を休職中の皆さまへ

  人生の途上で大きな病気や怪我をされ懸命な治療とリハビリを経て退院の日を迎えられた皆さま、お疲れさまでした。自分の体がどうなってしまうのか、自分や家族の生活はどうなってしまうのか、たいへんな不安な日々だったことと思います。

 

 病院では主に家庭に帰るための訓練をされてきたと思います。病院ではまだ復職を意識した相談や訓練はされてこなかったでしょう。「これから始まる在宅生活で復職に向けてどんな準備をしていったらいいのか」、退院の時に病院から何かお話がありましたでしょうか。もし、何のお話もなくて今後の見通しをお持ちでない方がいらっしゃいましたら、復職支援アドバイザーをしている私からいくつかアドバイスをさせていただきます。

 

1 安定した在宅生活を送る

 働くための基礎は安定した在宅生活です。生活リズムを整える、家事の役割を持つ、散歩をする、テレビや新聞を見る、買い物をする、交通機関を使って外出する、喫茶店などに入る、図書館を利用するなど、働く前に出来ていた在宅生活がどのぐらい送れるのか、確かめてみましょう。

 

2   高次脳機能障害についての検査や訓練を受けてみる

 脳卒中やけがによって高次脳機能障害が残ることがあります。易疲労、記憶、注意などの機能が低下して日常生活や労働生活に大きな影響を及ぼします。高次脳機能障害について知ったり訓練を受けることは復職の準備でたいへん重要です。リハ病院の外来診療を受けてみましょう。また高次脳障害者支援センターに出かけて復職の準備のために利用できるサービスがあるか聞いてみるのもよいでしょう。高次脳機能障害の家族会に参加して先輩たちの経験を聞くのもよいでしょう。

 

3 職業検査や職業相談を受けてみる

 病気やけがによってご自分の職業能力が影響を受けていないか、職業検査によって知る。また、今後の復職の準備の進め方について相談をしてみましょう。職業検査や職業相談は障害者職業センターリハビリテーションセンターの就労支援部門などで受けることができます。柴本礼『高次脳機能障害の夫と暮らす日常コミック 日々コウジ中』(主婦の友社、p80~)に障害者職業センターのことが出てきて参考になります。

 

4 生活訓練や就労系の障害福祉サービスに通う

 自宅にいるだけではフルタイムで働くための体力や集中力はもどってきません。やはり週3~5日通う所を作りましょう。生活訓練や就労移行支援という障害福祉サービスがあります。就労移行支援ではいくつかの作業が用意されています。内職仕事のような軽作業やPC作業などがあります。ご自分のやっていた仕事とは違うと抵抗を感じる方もいらっしゃいます。しかし、これらの作業はご自分に起こっている後遺症の影響を知るための材料にするとよいでしょう。集中力、指示の理解、処理速度、作業の手順の記憶、マルチタスクをこなせるかなど、目的意識を持って就労系のサービスを使うことをおすすめします。

 なお、会社を休職中の人は就労系の障害福祉サービスを利用できないという誤解があります。厚労省からの事務連絡で可能となっていますのでお近くの福祉事務所に利用の相談をして下さい。

 ※平成29年3月30日付け事務連絡「平成29年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A(平成29年3月30日)」の問12参照

 

5 会社とやりとりをする

 就労系の施設に通い始めた時には会社に一報を入れておきます。次に会社と連絡を取るのは遅くても休職期限の3~6カ月前ぐらいの時期にします。復職の準備状況を報告し復職の意志を伝えましょう。この時期にはご本人が自分の後遺症についてある程度理解していることが望ましいです。自分に出来ること、苦手になったこと、会社で配慮してほしいことを説明できるようになっていると会社側も対応がしやすくなります。

 ご本人の同意を得たうえで会社側が求める場合には就労系のスタッフが作業の様子や配慮点などを説明することもできます。この最初の会社との復職の打ち合わせの後、何度かやりとりがあり、最終的には主治医の意見書を提出し、産業医との面談を経て復職の可否が会社判断でなされていきます。

 

6 復職できるかは時の運もある

 どんなに努力しても復職できるとは限りません。その方の後遺症の重さ、それまでの貢献度、会社の体力、その時の景気、職場の人間関係、職務変更の可能性など様々な要因で復職の成否は決まります。

 たとえ駄目だったとしても「やるだけのことはした」という実感が持てれば次の一歩を踏み出せます。一緒に頑張ってきた家族、スタッフや仲間がいた方が落ち込みから再び立ち上がりやすくなります。どうか一人だけで復職に取り組まず、同じ当事者の人たちとも出会いながら、私たちのような復職支援をしているスタッフを見つけて下さい。私たちは皆さまに出会うことを待っています。